女神達の遊戯


リムルダール

 朝の温泉は、格別に気持ちが良かった。

 熱めの湯に身体を浸し、首から上を凛と冷たい空気にさらしていると、いつまで入っていても逆上せる事はなさそうだ。朝日を浴びて輝く緑の葉に目を細め、森が奏でる音に耳を澄ます。小鳥の鳴き声のさらに遠くから、朝の仕事を始めた人々の喧騒が聞こえてきた。

 その話を聞いたのは、湯上りの火照った身体でのんびりと木洩れ日の中を散歩していた時だ。

「良い天気だな」

 マイラには湯治客が多いので、村の人々は外から来る人に慣れている。むしろ積極的に金を落とす来訪者を、歓迎さえしていた。湯治客がめっきり減ってしまった今、彼らは外からの人々と話す機会に飢えているらしい。多くの人が、余所者であるゾーマに話しかけてくる。

 例に漏れず、その男もそうだった。

「どこから来たんだ?」

「ラダトームから」

「リムルダールに行くのか?」

 リムルダールは、このマイラの森の南にある。両者の間には大河があるが、ロトの時代の少し後に開通した洞窟が、両岸をつないでいた。

 ゾーマは、そうだ、と頷く。姫を探してここに来たわけだが、目ぼしい情報がなければそうするつもりだ。

「聞いた話だがな――」

 男は声を潜める。

「リムルダールへ行く南の洞窟の中で、美しい女性を見た人がいるらしいぞ」

「…………」

 ゾーマは男の顔をまじまじと見る。

 ここに来て初めて得た姫らしき人物の情報だ。

「あの洞窟は、すっかり魔物だらけだ。美しい女性がいるはずがない。いるとしたら、あんたみたいな冒険者くらいだ」

 男は呆れたような笑みを浮かべて、肩をすくめた。彼にとってその話は、ネタの一つでしかないらしい。

「どうせ、怖さのあまり幻でも見たんだろう」

「――なぜ」

 驚きで干上がった口から出てきた声は、わずかにかすれている。ゾーマは一つ咳をして、再び口を開いた。

「なぜ、その与太話を?」

「与太話かもしれない。でも、本当かもしれない。余裕があったら、探してみろよ、洞窟の中の美女」

 ゾーマは笑って頷いてみせた。

「美女を見つけたら、連れて来よう」

「期待せずに、楽しみにしているぞ」

 男は楽しそうに笑って、去って行った。


 与太話だと思っている男には冗談交じりに返したが、ゾーマはかなりの確率で事実ではないかと考えている。ガライで聞いた話と、辻褄が合うからだ。

 ゾーマは、さっそく南の洞窟に行く事に決めた。



 マイラの森を南へ抜け、平原をさらに南下すると、再び山と森にあたる。

 ゾーマは西回りに山を迂回し、うっそうとした森へ入った。森は、人がここを行き来できるのかと疑いたくなるほど、禍々しい気配を発していた。地面がどす黒い紫色になっている。

 ここに居るだけで体調が悪くなるような臭気――いや、瘴気と言うべきか? ――を、ゾーマは知っている。これは、大量の人や魔物が死んだ後の状態だ。死んだ魔物が放つ禍々しい魔力と、無念のうちに死んだ人々の思いが、毒の気となり、周囲を蝕む。瘴気に蝕まれた地面は腐り、まるで沼のようだ。

 この瘴気は、魔物によって滅ぼされた集落や、人によって壊された魔物の巣などに生じる。また、魔物の中には、あえてこの瘴気の沼を作りだし、自らの住処を守る物もいた。

 さて、これはどれにあたるのだろうか?

 ゾーマは考えながら、沼に足を踏み入れた。紫色に煙る大地の向こうに、穴倉と言うには立派な入口を見つけたからだ。あれが目的の洞窟だろう。

 この程度の距離なら、毒の沼に踏み入れても大丈夫だろう。ただし、洞窟の中も同じ状態なら、出直すべきだ。その判断をするために、ゾーマは瘴気に侵された森を進む。

 吐き気に耐えられなくなる寸前で、ゾーマは洞窟にたどり着いた。腰の剣を抜き、切っ先にレミラーマで灯りをともす。灯りを洞窟の中へと差し入れると、街にあるような整った石畳と綺麗に磨かれた壁が、魔法の光に照らされて浮き上がった。魔物の気配はそこかしこに感じられるが、毒の気配は全く感じられない。想像以上に綺麗で、頑丈そうな洞窟だ。

 これなら大丈夫だと判断し、ゾーマは洞窟の中に入る。

 洞窟の中に入ると、今までの瘴気が嘘のように清々しい空気が流れている。普通は洞窟の中の方が空気は籠っているはずなのに、ここでは逆だ。風の流れすら感じる。風通しが良くなるように作られているのだろう。

 レミーラの灯りに照らされた道は、まっすぐ南へと延びていた。両大陸を行き来するために人間が掘った洞窟だ。人が迷うようには出来ていなさそうだ。

 ところどころある横道は、作業で使われたものだろう。闇に沈む横道を眺めながら、ゾーマは道なりに南下する。闇から現れる魔物は、適当にあしらえる程度の強さだ。

 しばらくしたら突き当たったが、進むべき道は限られており、道に迷うようなことはなかった。 地盤の関係でまっすぐ掘り進めることが出来なかったのだろう。最後に、道はぐるりと曲がり、もう一方の出口に出た。


 洞窟を出ると、やはり瘴気がゾーマを出迎えてくれた。しかし、北のそれよりは大きくない。ゾーマは息を止め、一気に瘴気の森を駆け抜けた。

 森を抜けたら、草原が広がっていた。

 ただっ広い草原に出た事で、ゾーマは逆に困惑してしまった。

 ローラ姫をさらった魔物は、あの洞窟に入った。そのままこちらに抜けたとして、どこへ行ったのか。これではまるで見当もつかない。

「リムリダールへ行ってみるか」

 もしかしたら、そこで目撃情報を得られるかもしれない。

 ゾーマは地図を眺め、南へと歩を進めた。



 リムリダール、そしてその先にある島まで回ったが、美しい女性を連れた魔物の情報を得ることはできなかった。

 それ以外の貴重な情報は、得ることができたと思う。それは、竜王を倒す時に必要なものだった。だが、今、ゾーマが欲しい情報はそれではない。

 彼は今、リムリダール島の北西へと進んでいる。その先の岬に、ロトが虹の橋をかけ、魔の島へと進んだという話を、聞いたからだ。

 もし、沼地の洞窟の前で見たといわれるローラ姫と魔物が、洞窟を抜け、その岬から魔の島へと入ったとしたら、困ったことになる。

 今のゾーマに、あの岬から先へと行く手段がないからだ。


 ゾーマは太陽と雲を手に入れた。それらを『太陽と雲が合わさる場所』に持って行き、そこで『虹』を手に入れなければいけない。そういう話を、リムリダールで得た。

 その『場所』である、ラダトーム南の聖なる祠へはローラ姫の足取りを探すついでに立ち寄った。

 しかし。

「愚か者よ、立ち去れい!!」

 門前払いを食らってしまった。

 『虹』を手に入れるには、『太陽』と『雲』だけでは不足だったのだ。祠に住む賢者は、自らがロトの子孫であるための『証』が必要らしい。彼が使用している家紋を見せたが、違う様だ。必要なのはそのオリジナルだと言う。

 だが、ゾーマはそれがどこにあるのか、知らない。


 この旅で、ロトの子孫と言う割に、ゾーマはロトの事について、なにも知らないと思い知った。

 ロトの『真の』紋章の存在も、ロトの持つ最強の剣の事も、彼は知らなかった。四百年以上の月日によって失われたのか、ロトがそれらの情報を子々孫々へ伝えることを拒んだのか。

 ロトの真意を、祖先の行いを、知りたい。しかし彼らは既に歴史の中の住人であり、今、この世界を生きるゾーマには、彼らの意図を聞く手段はない。

「知ることが出来ない情報にこだわっていてもしょうがない」

 今は、知らないことを知れただけでも、収穫とすべきであろう。知るべきことは、この旅の中で探せばいいのだ。

 そして、今、最優先で探すべきことは、失われた伝説の武器や道具ではない。

 ゾーマは頭を左右に振って、思考を切り替える。

 まずは、ローラ姫の行方だ。


 彼にはまだ探していないところがあった。

 マイラとリムルダールを結ぶ洞窟の、使われていない横道だ。


 その前に、ゾーマは岬へ寄り道をすることにした。

 行っても無駄だという事がわかっている。しかし、今、自分と敵との間に横たわっている深い溝を、この目で見ておきたかったのだ。


 島の北端から、海沿いに西へと進む。緑の平原は徐々に草の背丈を低くし、先に進めば進むほど砂と岩の大地へと変わっていっていた。岬までは大変見晴らしがよく、目的地へとなだらかに登っているのが良くわかる。

 岬の根元辺りに着いたとき、その先の風景も見えた。

 それは奇妙な風景だった。

 岬は、不自然なほど、西へと突き出している。そして、魔の島からも、やはり不自然な突起が、こちら側に迫っていた。俯瞰して見たなら、二つの島が指を突き合わせている様に見えるだろう。更にその先に、うっすらとそびえ立つ山が見える。アレフガルドで一番天に近い山が、闇に住む魔物の王の城だというのは、皮肉以外の何物でもない。

 しばらく歩いたところで、リムリダール側の岬の先端に、黒い影を見つけた。ゾーマがそれを見つけるのと同時に、その影が動く。

 どうやら影の魔物ではなく、黒いフード付きマントを羽織っているだけの様だ。おそらく、人だろう。


 黒い塊となっているその人は、すぐにゾーマに背を向けた。ゾーマはその背に向かって歩き出す。

 緩やかな上り坂が終わったとき、強い向かい風が吹いた。それは、ゾーマの髪を、マントを、そして目の前の小柄な人物のマントをはためかせる。

「あ……」

 黒マントの人は、小さな声をあげ、両手でフードを抑えようとした。しかし、遅い。フードは風によって脱げ、目にも鮮やかな真紅の髪が、青空に舞い上がる。

 ゾーマは思わず目を見張った。

 その色は、一度見たら忘れられないほど、美しい赤だった。

 しかしその髪の持ち主は、美しい色をじっくり鑑賞させることを許さなかった。ゾーマに背を向けたまま、その人は慌ててフードをかぶりなおす。美しい真紅は、闇色のマントに覆われて、見えなくなってしまった。

「あ……あのっ!」

 ゾーマががっかりしていたら、その人は、彼に背を向けたまま声を上げる。低めだが、紛れもなく女性の声だ。

「こ、この先に、貴方が求める者は、おりません」

 背を向けたまま放たれた言葉に、ゾーマは眉をしかめる。ゾーマに求めている者がいるのは確かである。だが、なぜ彼女は知っている?

「そ、それだけですっ!」

 しかし彼女は、ゾーマの抱いた疑問を口にする間を与えなかった。

「すみません!」

「え、まっ」

 ゾーマが口を開く間もなく、彼女はキメラの翼で西――魔の島の方向へと飛びさってしまった。

「待ってくれ……」

 残されたゾーマの言葉は、空しく海峡に吸い込まれていった。



 ゾーマは瘴気の森を抜け、再び沼地の洞窟に入った。今度は、反対側、リムルダールからだ。今度は今まで無視していた横道もしっかり探すことにした。

 ゾーマに鮮やかな印象を与えて消えた謎の少女。疑問は尽きないが、ゾーマは彼女の言葉を疑う気になれなかった。根拠のない話を簡単に信じるような性質ではないと思っていたのだが、不思議なものだ。


 鮮やかな紅が、目に焼き付いてしまった。

 控えめな低めの声が、ずっと耳の奥に響いている。

 願わくばもう一度、会ってみたい。

 今度はもっと近くで、ゆっくりと。

 一瞬の出会いで生まれた、この感情を表す言葉を、恐らくゾーマは知っている。

 だが、そんな陳腐な言葉で、この気持ちを表したくなかった。


 横道は、入口の反対側、つまりマイラ側にしかなかった。ゾーマは一番最初に見つけた横道へと足を踏み入れる。すぐに、左右に分かれる道があったが、それは右手に折れた。左側はマイラ方面だ。たくさんの横道があるマイラ方面より、横道が全くなかったリムルダール方面の方が、洞窟の『奥』にあたると判断したのだ。

 工事用の横道が、それほど複雑な作りになっているわけではない。

 ゾーマは、あっさりと洞窟の最奥へと辿り着き――慌てて光を消し、身を隠した。

 彼の視線の先には、いかにもと言わんばかりの、頑丈な扉がある。その目の前に、これもまた、いかにもと言わんばかりの門番が鎮座していた。

 それは光沢のある緑色の巨体だった。先人の努力によって掘られた大きな洞穴でも狭く感じられる。洞窟に入る事すらやっとのような巨体だ。自由に動き回ることなど出来ないだろう。

 しかしそれは、動きに制限があっても脅威であることには変わりなかった。


 ドラゴン。


 ゾーマはごくりとつばを飲み込む。

 彼は、その魔物の脅威を、知っていた。しかも、目の前に鎮座する魔物は、彼の知っているドラゴンよりも大きい。

 どうする?

 腰に佩く剣の柄をを握りしめて、ゾーマは自らに問いかける。

 ドラゴンが、扉の向こうにあるなにかを守っているのは、間違いないだろう。その『なにか』がローラ姫である可能性も高い。紅い少女の言葉がなかったとしても、ゾーマはそう判断するだろう。

 ゾーマは『あの時』ドラゴンに歯が立たなかった。彼が持っていた銅の剣は、鱗を削ることすらできなかった。

 今はどうだろうか?

 『あの時』よりも、少しは強くなっているとは思う。しかし、目の前のドラゴンも、『あの時』のドラゴンより明らかに強そうだ。

 だが、相手は一匹、そして相手に不利な狭い空間だ。『あの時』敵は、ドラゴン一匹ではなかった。

 ゾーマは静かに剣を抜いた。


 扉を守るドラゴンは、まっすぐ前を見据えている。不意打ちは通用しない。ゾーマは剣先に魔法の光を灯し、堂々と魔物の前に姿を晒した。不意打ちが出来ないのであれば、視界を確保するためにも、光はあった方が良い。

 ゾーマがドラゴンの正面に立った瞬間、魔物は洞窟を震わす大声を上げた。ゾーマはその大音響に眉をしかめつつも、盾を構える。案の定、激しい炎がドラゴンの口から吐き出された。皮の盾は、一瞬だけ炎を防いでくれたが、すぐに燃えはじめた。それは予測済みだ。ゾーマは迷わず燃えた盾をドラゴンの顔に向かって投げつけた。魔物が吐いた炎の一部が、逆走して自身の右眼を襲う。燃えた盾をまともに受けたドラゴンは、炎を吐くのを止め、絶叫を上げた。運よく留め具の金属部分が当たっただろう、盾の攻撃を受けた右眼は潰れ、開く気配がない。

 盾がドラゴンの瞳を潰す間に、ゾーマは潰した右眼の方へと回り込んだ。駆ける勢いのまま、ドラゴンの右脇を斬りつける。リムルダールで買った鋼鉄の剣は、ドラゴンの鱗と皮膚を切り裂いた。

 ゾーマはドラゴンの背後に回り込んだ。剣を搆え直し、彼はドラゴンの背中を駆け上がる。当然ドラゴンは、彼の動きを把握しているだろう。しかし、その巨体は、洞窟には狭すぎて、反転する事も、ゾーマを振り落とすこともできない。ドラゴンにできるのは、洞窟を震わせる咆哮をあげる事と、敵のいない方向へがむしゃらに炎を吐き散らすだけだ。

 ゾーマはドラゴンの背中を駆け登り、首へと達した。ドラゴンも、人と同じく、他の個所に比べて、首が細い。胴体を両断することはできなくても、首なら斬れるはずだ。

 片手に提げていた剣を両手で持つ。斬り付けようと振りかぶったところで、なにかを感じ、ゾーマはふと顔を上げた。

 ドラゴンの、怒りに満ちた左眼と、目が合った。

「なぜ!?」

 思わず叫ぶ。

 ドラゴンは身体はそのままで、顔だけ真後ろへと向いていた。口からは炎が溢れ出している。

 ゾーマは舌打ちをし、後退しようとした。しかし、そのタイミングを見計らったように、ドラゴンは大きく身震いをした。突如大きく揺れた足場から、ゾーマは転がり落ちる。その後を追いかける様に、炎が吐き出された。ゾーマはとっさに剣を捨て、両腕で顔を覆い炎から守る。

 炎は、ドラゴン自身の背中や尾を巻き込んで、ゾーマに襲いかかる。ゾーマは炎とともに地面へと転げ落ちた。

 受け身はどうにか間に合った。顔を守った事で呼吸が満足にでたので、地面に落ちてすぐに次の行動に移す。ゾーマは燃え移ったマントを乱暴に剥ぎ取った。彼がマントの中に着ているのは、燃えやすい布製の服だ。悠長にしていると、すぐに火達磨になってしまう。

 熱が去ったと思った瞬間、側面から太い何かによって殴り飛ばされ、すぐ側の壁に叩き付けられる。今度は十分な受け身を取ることはできなかった。

 それでもゾーマはどうにか立ち上がるが、すぐに膝をつく。打ち所が良くなかったのか、酷い目眩と吐き気がした。

 膝をつくゾーマにドラゴンの牙が迫りくる。ゾーマはドラゴンの尾の方に倒れているというのに、苦も無く顔を寄せてきた。まさか、そこまで首が回るとは思わなかった。その柔軟性には笑うしかない。まさかやられる原因が、ドラゴンの並外れた身体の柔らかさだとは。

 さて、どうするか。

 霞む眼でドラゴンを見上げる。このまま倒される気などないが、一体今の自分に何が出来るのか。

 剣は手放してしまった。そもそも、持っていてもこの火傷では剣を振るうことなどできない。武器を使えるようにするには、回復呪文をかける必要がある。しかし、回復と反撃の両方を行う時間は無い。

 ならば、呪文だ。攻撃呪文はベギラマまで使えるが、おそらく効かないだろう。ゾーマと一緒に焼かれた筈の背中や尾は、表面の塵を焦がしただけだ。鱗には、欠片の傷もない。

 つまり、反撃の手段はない。

 なら、逃げるか? いや、悔しいが逃げるしかない。脱出呪文は使える。呪文が間に合うかどうかは賭けになるが。

 それしか手はない。

 行動を決めた瞬間、ふつふつと怒りが湧いてきた。

 自分の見通しと詰めの甘さについては、ドラゴンと目があった時から、ずっと憤っている。だが、これは違う。もっと、理不尽で、傲慢な怒りだ。


 こんな奴如きが、自分の命を奪うなど、許されるわけがない。

「私に近寄るな。眠れ」


 怒り身を任せてに放った言葉。重く、深く、冷徹なその響きは、強い呪いの力になった。

 理不尽な怒りの呪いが目の前の魔物に届く。ドラゴンは口から漏れ出る炎を四散させ、鋭い瞳を静かに閉じ、彼の鼻先で深い眠りに落ちた。

 それを見届ける前に、彼もまた、意識を手放していた。

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