僅かな間でも

 最初は、優勢だったと思う。
 お兄様がいて、トトから都市同盟入り。リューベと、一番厄介だった傭兵の砦を力で押しつぶした。
 そして、あの人の手引きで都市同盟の事実上の核であるミューズを内より崩し、グリンヒルを占拠。
 サウスウィンドウも一時占拠し、市長であるグランマイヤーを殺している。しかし、それは一時だけだった。更に手を広げようと、出来たばかりの同盟軍本拠地。そこを落とす事に失敗し、サウスウィンドウからの撤退を余儀なくされたのだ。
 そして、トゥーリバーでの失敗。その後のキバ隊長のサウスウィンドウ攻略の失敗と裏切り。
 しかし、それでも我がハイランドの優勢は揺ぎ無かった。
 それでも私達は、リューベ、ミューズ、グリンヒルを我が物としていたから。

 兄様が無くなってからも、ハイランドの優勢は変わらなかった。
 兄様の次に、あの人が皇王となり。兄様のときとは違う。あの、圧倒的な強さとカリスマで纏めていた兄様と違う、自らの意志で国を守るという各々の想いによる団結力で国が一つにまとまっていた。
 グリンヒルは同盟軍にとられたけど、我が国はマチルダという騎士の国を手に入れた。
 グリンヒルがとられたというのは大きく、また、マチルダには3つあると言う騎士団の二つが向こうに行っていたために、ゴルドーの裏切りによりあまり得たものは少なかったけど。
 それでも、国力でいっても、軍力でいっても、互角以上であったと思う。

 しかし、なぜ、こんな事に?

 ジルは、同盟軍の到来によって騒がしくなった城内に耳を傾けながら、考えていた。
 女は、政治に口出しなどしてはならぬ。
 ハイランドにはそう言う風習があったから。だから、何も言わなかったが。夫も何も言わなかったが、彼女は彼女なりに国を思い考えていた。

 そういえば……

 彼女は思い出す。

 同盟軍。あそこは、女性も戦っているとか。
 新しく出来た、彼女の夫の友人が旗印となっている今の軍の前、自らの保身しか頭に無かった消極的な都市同盟も、女性が当然のように、表向きの事に口を出していた気がする。
 ミューズの市長は、アナベルという女性だったとか……確か、グリンヒルの市長代理も……
 ハイランドでは、女性は奥にいて家を支えるのが勤め。表に出るのは、男だけだった。

 でも、今は、そう言うことを言っている時ではないのではないかしら。

 男性方がこの国を守るために、今戦っている。
 何故? などと考えている前に、私も国を守るために立たなくてはいけないのではないのか。
 精巧に出来た人形。その胸につきたてられる剣。
 その人形の型になるだけが、私ではない筈。
「ピリカちゃん」
 夫から預かっている子供。自分たちが滅ぼした、トトの村の生き残りで、夫が実の妹のように可愛がっていた存在。
 その子供と目線を合わせる。
 この喧騒に脅えたのか、目が潤んでいた。
「私も、戦わなくてはいけないと思うの……」
「ジルお姉ちゃん?」
 ピリカが、ちょこんと首をかしげたのと同時に、彼女の部屋の扉が、小さく控えめに叩かれた。
「あ……」
 このノックの仕方は、良く知っている。
 私が最も憎み、最も愛した者。
 彼にとっては、私など、形だけの夫婦だったのだろうけど。

 はい、と小さく答えたら、想像していた人が真剣な面持ちで部屋に入ってきた。
「シードとクルガンが、足止めをしている。……多分、時間の問題だけど」
 痛ましい表情。
 ハイランドは、彼にとって裏切りの国であり、憎むべき存在だけど、それでも彼につき従ったあの二人は、大事だったのだろう。
 彼等の行く先を思って、彼は端整な顔を歪めている。

 ついに来てしまった。滅びの時が。

 私には、逃げるという気は無かった。このときは、全く。
 例え、私の好きなものがことごとく憎んでいるこの国でも、私は私なりの愛着があり、責任があったから。
 国と一緒に滅びるべきだと、思っていた。

 それなのに、この人は!

「逃げてくれ」
 彼の大切な、ピリカを連れて、逃げろと言う。
 彼は、私に、最後の皇族としての勤めも果たさせてくれないのだ。
 そして私は、夫の言うとおりにしか動く事は出来ないのだ。

 いえ。
 多分、出来た。
 この地に残って、国と供に滅びる事は、多分。
 でも、出来なかった。

 彼の心を知ってしまったから。

「僅かな間でも、僕は君の夫でよかったと思う」
 最初は、私を道具としか使っていなかったこの人が!

 君と会えて、良かった

 僅かな間でも、彼は私を愛していてくれたと、知ってしまったから。
 彼の私を思っての、唯一の行動を無下にすることも出来ず。
 私は、祖国を捨てた。

 兄を、祖国を滅ぼした憎い貴方。
 私の心を奪っていった、愛しい貴方。
 残酷なまでの優しさをもった貴方。

 私の夫。
 ただひとりの夫。

 きっと、あの人が皇王となった時点で、私達は負けていたのだ。
 あの人は優しすぎて、国を滅ぼすなんてこと、出来やしない。非情になれない。
 敵に優しすぎて、きっと自滅するのだ。

 だから、好きだったのだ。

 私も、僅かの間だったけど、貴方の妻で幸せでした。
 貴方の心が分かって、幸せでした。

後半を書いていくうちに、最初はあまりに蛇足だなぁと思ったけど(最初に蛇足ってどういうことよ?)消すのはやめました。
しかし、うろ覚えなため、大変な事になっている気がします。
科白なんて、出鱈目。

なんとも珍しい、幻水2ハイランドサイドのお話でした。また書くか。

ちなみに私は、坊ナナ故、ジョウジル。

2003-4-18
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素材:トリスの市場様