叶わない想い…でも、私と貴方は違う…
暗闇の中、彼女は独り佇んでいた。
「流石に…誰もいないのね。」
独り呟く。
ここは、かってノースウィンドウと呼ばれていた同盟軍の本拠地インアイランド城。少女はそこの、夜間は立ち入り禁止な筈の屋上にいる。
満月の夜には独り、其処に佇む青年がいるのを彼女は知っていた。
最初はふと、何かを感じて外に出てみたら、彼が上へと登っていくのを見つけたのだ。こんな時にこんな所で貴方とあえるのは、やっぱり運命なのよとか言って、感動したものだ。それから知った。彼は満月の旅に眠れずに屋上へと足を運ぶ事を。そして、それから、満月の度に青年の後をつけて行った。たまに話しかけた事もあるが、彼は物思いに耽って、ただ、ただ月を見ているのだった。
オデッサ…
それが彼の心の中で大きな何かとなっている。彼女はそれをここで知った。『オデッサ』というキーワードを酔った彼の相棒から聞き出し、彼に向かって言ってみたところ、よそう以上に激しく反応した。そして、此の言葉を放つ時の彼の顔は愛しそうで、哀しそうで、そして、とても、優しかった。
分からないわ…
あの人は、どうして分からないのだろう…
死んだ人を想い続ける事の無意味さを…子供でも分かる。死んだ人を想い続けていても、何の意味もない。ただ、ただ苦しいだけなのではないか?前に進む事も出来ないのではないのか?
「貴方をこんなにも想っている人がいるのに…それに応えずに、死んだ人を言い訳にして逃げるなんて汚すぎるのではないですか?」
彼を想っている人に失礼なのではないですか?
相手にされないのが悔しい、本気にしてもらえないのが悲しい、過去の人に囚われているあの人がとても哀れだ…
「忘れられないんじゃない、忘れないんだ…」
貴方の言った事が分かりません…
其処迄して想い続けられる『彼女』の魅力が分かりません…
涙が出て来た。悔しくて、悲しくて、そして、哀れで…
「-あっ…」
闇の深い新月の夜。闇は力を与えてくれる…
「ご、ごめんっ!!」
眠れなくて、闇に誘われて屋上へ登って来た彼は其処にいた少女の泣き顔を見て慌てて謝った。
「…?なんですか、アサさん?」
かってトランで起こった解放戦争での立て役者、アサ・マクドールである。今は確か、表向きには此の軍のリーダーの友人として、協力をしていた。本当の理由はリーダーの側にいる一人の女の子だと言うのは一部の間では公然の秘密だ。ナナミとニナは、同い年の所為もあり、仲が良い、自然、彼とも良く話をした。
誰もいないと思っていた所に人がいて、しかも泣いていたのを見て、アサは珍しく同様を露にした。そんな彼を見て、ニナは思わず笑ってしまう。
「何、謝るんです?」
「…いや、ちょっと動揺して、思わず…」
「どうして?」
「まさか、ニナちゃんがこんな所で泣いていたなんて…」
彼女の性格からして、いつもは笑い飛ばす所。年頃の女の子の涙の姿は美しかった?そのくらい言っているところ。
しかし、今は何故かそんな気になれなかった。八つ当たり気味に聞き返す。
「変ですか?そんなに私がこうしているのが変ですか?」
「?…いや、別に?」
感傷的になるのは何も満月の夜だけじゃ無いよ。そう言って彼は、満月の夜に見るフリックと同じような眼で同じようにこの、闇の空を眺めた。
「何か…ヤだな…」
その様子を見てニナは呟く。どこか悲しげに微笑んで首を傾げるアサに、真直ぐ答える。
彼との会話に言葉を隠す事など出来ない。それでも彼は読んでしまうから…しょせんは適わないのだ。
「アサさん、フリックさんと同じ目、してる。」
「どういう事?」
「満月の夜にここにいるフリックさんの目と一緒。何か厭。」
外見年令は自分よりは小さいものの、自分よりも年上の存在に、ハッキリ言って失礼かと思うような言葉を言っても、アサは微笑んでいる。彼女の率直で少しきつい言葉は気持ちが良い。だから、正直アサはニナと話しているのは楽しかった。そして、彼女との会話では彼も言葉を飾らない。…もともとそんな事する性格でも無いのだが。
「それはきっと、フリックと同じ人のことを想っているからじゃないかな?」
「…え?」
オデッサ…
あの言葉が頭の中で鳴り響く。
分からない。
何が楽しいの!!
「死人に想いを寄せ続けるのは何故っ!!」
思わず叫んでいた。優しい目でそんな彼女を眺めている少年…
「闇は僕に力をくれる…」
彼はいきなりそう言って、手袋を外し、右手を差し出す。
其処にあるのはソールイーター…魂を喰らうと言う紋章。
「会って…見るかい?」
泣けてくる程優しい瞳。その、深い蒼はどこか辛そうにも見える。
「…誰に?」
「オデッサさんに…」
会って話せば分かると思う。そう言った。気が合うだろうとも。
「だって、同じ人を好きになった仲だからね…」
闇…
一瞬の光の後、其処は本当の闇だった。
何処に一場の光が射す。
誰か…いる?
四つの影
壮年の男性。同い年くらいの少年。見た事があるアサの付き人。
そして…
赤を纏った一人の女性…
光は絞られて次々と影は消えていく。残ったのはその女性のみ。
彼女はニナの方へ寄って来て、そして微笑んだ。
優しくて、力強い笑み…
「今晩和。初めまして。私に話があるのは貴方?」
「…あ、貴方は?」
「私は、オデッサ・シルバーバーグです。貴女は?」
オデッサ…
彼女が、『オデッサ』…
「初めまして、ニナです!!そう、貴女に言いたい事があるの!!」
綺麗な人。そう思った。美人とかそういうのでは無い。確かに整った顔だちをしているが、それよりもその凛とした表情と、悲しげな深い色の瞳が綺麗だと思った。誰かに似ている、そう、思う。
でも、それでも、此の存在は…
「放して」
そう、あの人を…フリックを縛り付けている存在…
「あの人を…フリックさんを縛り付けないで!!」
気持ちが高ぶっている。何で今日はこんなに涙が出るの…
流れる涙をそのままにニナはオデッサを睨み付けた。さすがのオデッサも、いきなりの言葉に驚いたが、そのまま表情を笑みに持っていく。その瞳の悲しみは、一層、大きくなっていたけれども。
「有難う、フリックのことが好きなのね。」
想ってくれる人がいる彼は、きっと、幸せなのだろう…
もう、彼の中に私はいないのかも知れない。そう思うと悲しかったが、それは、彼をおいて逝ってしまった私への罰。そこで、ずっと私を思って生きていてと言うのは余りにも自分勝手だ。だから、彼女はそれを望まない。愛しい彼がずっともういない自分に縛り付けられるのを、良しとしない。
しかし本音は、忘れないで、ずっと、私のことを想っていて…
安心したような、喜んだようなオデッサの言葉はニナを激怒させた。
これは侮辱だ。涙で濡れて良く見えない彼女の笑みは、彼の『恋人』という自信から来る傲慢な笑みに見えた。
そう思った。
だから、怒鳴ってやろうと勢い良く涙を拭って彼女を睨み付ける。そして、その瞳を見て、分かってしまった。
同じ人を愛する彼女の哀しみを…
誰が幸せなのでしょうか。
何時までも一人の女性を想い続けて、彼女を追い掛けて、ひたすら前へ進むあの人…
何時までも一人の人に想われて、想い続けるこの人…
何時までも振り向いてくれないあの人を追い掛けている私…
でも、彼女はもう、いない。何時までいっても決して追い付く事は出来ない。
でも、どんなに想いあっても、もう決してその想いを確かめ会う事は出来ない。
でも、いつかは振り向いてくれるかも知れない、そういう望みを捨てる事が出来ない。
叶わぬ想い…
誰か、教えて下さい…
ふと、気付いたら、もとの風景に戻っていた。
「オデッサさんは…?」
見回す。夢だったのだろうか。
「お帰り。」
声がした。振り返ってみると、アサさんが外を見ていた。夢じゃ無かったらしい…私は彼女に会ったんだ。強くて、優しくて、哀しい、あの人の愛する人に。久し振りに沢山泣いたようで、目が痛かった。
何だかとても哀しかった。思いきり失恋をしたような感覚。
だって、彼等はあんなにも想いあっている…
だからフリックさんは、あの人のことを忘れないんだ。
だから、オデッサさんはフリックさんの幸せを願っているんだ…
「私…」
「ニナちゃん。」
アサさんが私の方を見て、優しく微笑んだ。目が、何も言わなくて良いと言っていた。
「今日はお休み。疲れただろうから…」
「はい、おやすみなさい。」
答えは、きっと、分かるはず…
「ふう…」
ニナが去った後、アサはその場に座り込んだ。流石に疲れる。なんかもしかして、すっごくヤバい事をしたような気がしないでも無いのだが、深く考えない事にした。
兎に角、ニナは何かを見つけて来た。これで良かったのだ…
ニナのフリックを追い掛けている様子は、全てを知っているものにとってはとても痛々しかった。だから、いつかは教えようと想ったのだ。ソールイーターと同調させて、オデッサの魂に会わせる…かなりの無理をしたが、それでも、彼女らを見ているよりはずっと気分は楽だ。
後は彼女次第。
気の強い彼女はそれでも未だ、フリックを追い掛けるかも知れない。でも、それが彼女の答えなら、生き方なら、何も言う権利など無かったし、言う気も無かった。
「お節介が過ぎたかなぁ…」
少しそう思ってしまったが。
「全くだ。」
いきなり聞こえた声に驚く。其処にはビクトールが星辰剣を持って立っていた。
『全く…無茶しおって…』
呆れたような星辰剣の声。どうやら、強い闇の力の発動を感じ取ったらしい。
「…で、お前はどう言う答えを出したんだ?」
「…え?」
彼は知っていた。ニナの出した問いは、かって彼も同じく思っていた事だと言う事を。
「さあねぇ。」
笑ってはぐらかす。そのままお休みと、彼は下へ降りていった。
「…ったく。」
その様子にビクトールは苦笑する。相変わらず、言われたく無い事となると逃げ出すのが、上手い。
「…あ、ビクトールさん!!」
「え!?」
いきなり怒鳴り声が聞こえた。それにぎょっとする。
「何やっているんですか!?ここ、夜間立ち入り禁止って言っているでしょう!!」
「げげ!!」
見張りの声。どうやら、アサが去っていく際に彼を起こしたのだろう…
「畜生…アサめ…」
彼は暫く罰として、屋上掃除をやる羽目となる…
「…なあ、俺ってそんなに引き摺っているように見えるのか?」
階段を降りたところ佇んでいた青い影が聞いて来た。
「…フリック」
ビクトールが来たのだから、その相棒もいるのでは無いかと薄々感じていたが、まさか本当にいるとは思わなかった。
「…ニナが目を腫らしてここを駆けて行った。当然隠れたけどな…そしてお前が来んな顔して来た。」
そして皮肉気に笑う。
「お前がこんな顔している時は、トランでのことについて思い出した時だ。特にオデッサ関係だな…」
違うか?と聞いてくるフリックに憮然とした表情でそうだよと答える。
「…引き摺っているのは、僕の方かも知れない…」
怪訝そうな顔をしたフリックにお休みと言って、アサは逃げるように階段を駆け降りた。
そう、ナナミと言う少女の存在で随分と救われたが、それでも、自分は未だ、解放戦争のことを…オデッサのことを引き摺っている。
でも、そう思う。
「皆、幸せなんだよ。」
叶わぬ想い。それでも想い続けていられる彼等は幸せなのだ。
少なくとも彼等は不幸だと嘆いた事は無い。自分を含めて…
叶わぬ想い…それでも私は貴女を想う…
これは、イベントで出した突発SSのリメイクです。
長いですね…(苦笑)
少し色々手を加えて打ち直して(データ消しちゃったもので)…なんかより訳分からんくなってしまったかも(滝汗)
ニナちゃんとオデッサさんのお話です。
気の強いところとか、似ているかな、と思ったんだけどな…この二人。
オデッサさんが生きていたら、きっと二人は姉妹見たく仲良くなっていたと思ったところから此の話は来ました。
ニナちゃんが『オデッサ』から『オデッサさん』になった心境の変化がイマイチ上手く書けなかったのですが、もし宜しかったら想像して下さい(他力本願)
ニナちゃんは好きですし、この話もニナちゃん出刃っていますが、ハッキリ言ってニナフリは書く気ありません。
この話も、根底にあるのは結局フリオデ(笑)フリオデ至上主義ですから♪
元(突発の方…これも突発に近いけど)で、ビクトールがほぼ強引とも言える格好で出て来た時、私も好きだなぁ…と思ったのですが、ついに、出す気も全く無かったフリックさんまで出て来てしまいました。腐れ縁は何となくかかせないのでした。
フリックを出したのは、こいつはそんなに引き摺っている訳ではないのよん☆と言うのを言いたかっただけです。
少なくとも、本人はもう引き摺っている気はありません。ただ、彼のアイデンティティを確立する上で、オデッサと言う存在が必要不可欠なだけ…そう思うのです。
でも、フリック出て来ただけで、何のフォローにもなっちゃいねぇって(苦笑)