もし…

 高い空の中にいる。それはなんと気持のいいことだろう!
 操縦桿を握りながらパインはどこまでも続く蒼を眼を細めて眺めていた。
「おーい!」
 扉が開いて、片目のアルベド族が入ってくる。しかしその言葉はアルベド訛りの少ない流暢な標準語だ。
「何だ? あんたのいる場所はここじゃないだろう?」
「冷たい事言うなよ~。機械は大丈夫で、暇だったから来たんだろう」
 この船の機工士は口を尖らせる。しっかりしていて、飄々としている青年だが、実は結構寂しがり屋で一人でいることが少ない。必要のないとき以外は、皆がいるこの操縦室でうだうだしていた。
「あぁ、ギップル。いいところに……」
 穏やかな声が、その青年の名を呼ぶ。パインの右手にいる青年が、彼を手招きして呼んでいた。
 黒い肌と銀色の髪を持った穏やかな青年、バラライ。
「なんか気になる反応を見たんだけどさ。どうおもう?」
 彼は、自分のディスプレイに表示された地図を指し示した。
「怪しいな」
「な?」
 二人の三つの目が同じような光を帯びる。穏やかな物腰にうまく隠されているが、この船の航行士は機工士と性質はそう変わらない。
 おせっかいと言うか、厄介ごとに首を突っ込みたがると言うか……
 まぁ、お祭り人間なことは否定しようがない。
「気になる?」
「当然!」
 案の定、二人は地図の前で視線を合わせにやりと笑って、そのまま同時に彼等の船長の方へと向きなおった。
 そして、声を合わせて言うのだ、彼らは。其れが分かってコクピットでパインは苦笑する。
 しかしその言葉は発せられず、
「なんだよパイン。何がおかしい?」
 パインの様子に気付いたバラライが、あくまで穏やかに、しかし少しすねたような口調で言った。
「別に……」
 それでもパインは笑みがこぼれるのを止められない。
「なんだよ~」
 コクピットに乗り出して、ギップルはパインの顔をのぞきこんだ。
「いや、本当、なんでもない……」
 それでも笑いは止まらない。
 とても楽しい。こんな気分は酷く懐かしかった。

 懐かしい?
 私達は、再会してから、ずっとこうやって空飛ぶ船に乗っているのに……

「お前たちの言いたい事が分かったからだろ、パイン?」
 パインの中に沸き出た疑問は、船長の声で霧散した。
「どういうことだよ、ヌージ?」
「つまり、そういうことだ」
「「「船長、許可」」」
 三つの声が重なる。パイン、バラライ、そしてヌージ。
 一人取り残された形になったギップルが、悔しそうに鼻を鳴らした。
「で、お前さんはこういうんだろ?」
 今度は、ギップルとヌージの声がきれいに重なる。 
「「なにがだ?」」
 爆笑。笑いの渦で操縦室が溢れかえった。
「ガガゼトだよ、お宝スフィアの反応!」
 笑いながら、バラライが言った。
 暫くお互い笑いあって……そして頷きあう。
 死線を幾度も繰りぬけてきた。そういう仲だから、通じ合える間が生まれる。
 心地よい。
「よし! スフィアハンター……団、出発だ」
 船長の、ヌージの良く通る声が命じた。
 パインは方向を確認して、そして前を見る。
 どこまでも広がる蒼に、涙が出てきた……


 一瞬、自分がどこにいるのか理解できなかった。
 暫く見渡して、そこが船の居住区である事に思い至る。このベットを降りて階下を覗けば、ハイベロ族のマスターがいるのだ、きっと。
 眼が痛い。泣いていたのだ。
「夢……か」
 言葉に出して、現実を見詰めないと耐えられないくらい楽しい、夢。幸せに涙するくらい。
 そして、操縦室には、リーダと航行士がいる。
 名前は、ヌージじゃない。バラライじゃない。ギップルも、いない……
 隣のベッドで寝ているのは、このスフィアハンターカモメ団の仲間。リュック、ユウナ。
 彼女たちを起こさない様、そっと立ち上がり、マスターに目礼をしてパインは居住区を出た。
 一人になりたかった。

 風が当たる。
 周りは、さっきまで見ていた夢と変わらない無限の蒼。
 甲板の上で、パインは静かに眼を閉じる。夢の中のあの笑い声が、耳の奥で聞こえた。
 別に、今の自分に不満なわけじゃない。満足している、満ち足りている。楽しくてしょうがない。
 でも、あんな夢見てしまって……
「久しぶりにあいつらを見たからだ」
 やけくそに呟く。
 グループの名前が聞こえなかったのは、当然だ。そんなもの、ないのだから。
 酷く懐かしいのは当たり前。だって、彼らとああやって笑い会えたのは、シンがいた頃。2年前。
 そんな話はした事がある。
 とっても楽しい未来の話。もう、かなうことのない夢。
 
 でも、思わずにはいられない。

 もし。
 もし……なら、と。

FFX2「複雑な四角関係(ギップル談)」な話です。好きですよ、ええ!(何、無駄に開き直っている?)
性格は……ほら、彼ら重要キャラ(?)なのに出番ないでしょ? 半分私の妄想ですよ!
また書きたい。こいつらの話はすんごく書きたいです。

03-06-13
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素材:トリスの市場様