彼はその日も不機嫌だった。
ダーマで、ユウカが念願の武闘家に転職する事が決まった。そして、彼女が格闘のいろはを覚えるまで、しばらくダーマにいることに決まった。
彼女は、父が見繕ってくれた武闘着に身を包み、皆に披露した。彼女を良く知る――実は親馬鹿だった――大神官が選んだ薄めの桃色の武闘着と、春山の緑の帯は、彼女に良く似合っていた。
ユウカは武闘着を身にまとい、彼女へ武道のいろはを教えてくれる師が到着するのを待っている。
一方勇者アルは、ヨウに伴われ、ガルナの塔へ毎日のように出向いていた。
魔法が苦手だと言うアルを、なぜか魔法に通じている盗賊が鍛えるらしい。
そして、ラス。
彼女は、正直暇だった。
素質があるのであれば魔法使いなど志してみようかと思ったが、なぜか大神官に反対された。その理由は彼女にとって意味不明で、理不尽と言っても良かった。
しかし、両親がその理由を知っていると言う事。そして、ラス自身に、それと直面する勇気がないと言う事は、分かった。
いつかは知らなくてはいけない事なのだろう。だけど、怖い。もう少し、心の準備が欲しかった――いつ、その準備とやらが出来るかもわからないが。
勇気がない。だから、ラスはやる事がない。
「暇ならちょっと頼まれごとをしてくれないか?」
そんな暇なラスが大神官様から呼び出しを受けたのは、ユウカの武闘家の師がダーマに来たという報告を受けてから間もなくだった。
そこには、相変わらず不機嫌な表情で、ヨウが座っていた。
「暇人?」
「アルにはたっぷり宿題を出してきた」
質問に対して、ひねくれた答えが返ってくるのは盗賊の性質か、それとも彼自身の性格か。
「宿題が提出されるまで、暇と言う事ね?」
念を押せば、あぁ、と言う答えが返ってくる。それなら最初から、暇だと認めればいいのに。
そんな事を考えながら、相変わらず仏頂面のヨウを見ていたら、小さなノックと共に、ユーキさんが姿を現した。その後に続く人物を見て、ラス達は目を見張る。その人物も、細い目を開いて二人を凝視した。
「ヤンさん!」
「久しぶりと言うには最近ぶりやな、ラスちゃん、ヨウ君」
彼は、ロマリアからバハラタまでの道程を一緒にした冒険者一行の一人だった。口が達者でひょうきんな武闘家、ヤンである。
ラスは思わずヨウに尋ねる。
「えっと……ユウカちゃんの、師匠?」
「知り合いか?」
彼女の問いと大神官の問いが重なった。同時に二つの事を尋ねられたヨウは、肩をすくめる。
「偶然会って、バハラタまで同行した」
そうユーキさんに答えて、二人を交互に見る。そしてヨウは、納得した様子で二人に尋ね返した。
「もしかして、10年前の誘拐騒動の?」
「その通り」
今度は、ユーキとヤンが、同時に答える。それでラスも納得した。
しかし、世の中は狭い。ちょうどつい先日知り合った人物が、仲間に縁深い人だったとは。
「どうせ、武闘家にするなら、その憧れに鍛えてもらうのが、一番良かろう」
「あの子が、うちに憧れてくれるとはなぁ……嬉しいような恥ずかしいような」
ユーキの説明に、ヤンはくすぐったそうに頭を掻く。確かに、面と向かって誰かが貴方を憧れています、だなんて言われたら恥ずかしい。そしてきっと彼は、当人にも面と向かって言われて、更にくすぐったい思いをするのだろう。しかも、ユウカの様な可愛い子に言われれば、更に恥ずかしいに違いない。同性であるラスだって、彼女にそんなことを言われればくすぐったい。
ちょっと、その姿を見てみたいとラスは思った。彼は、どんな表情をするのだろう。
一通りの挨拶を済ませた後、大神官が話を切り出した。
「――と、言う事で、ヤン殿に快諾していただいたのだが、まぁ、彼にも彼の生活と言うのがある訳で」
「バハラタで、何かあった?」
全てを言い切る前に、ヨウが尋ねる。その質問に、ヤンとユーキは驚いた表情で顔を見合わせた。
「何で分かったん!?」
「流石だな」
しかし、バハラタで何かがあったかもしれない、と言うのは、彼らを少しでも知っていれば、ヨウではなくても分かる。ヤンの勇者の性格なら、未だにバハラタにいるとは考え難い。その日のうちにポルトガへルーラで飛び立っている筈だ。
そう、ラスが言うと、ヤンさんは違わん、と苦笑した。
「何かあったわけや」
「で」
ヨウが椅子に座りなおす。ギシと言う音が古い椅子からして、彼は顔をしかめた。物音を立てることを嫌う、盗賊らしい反応である。
「俺たちの何が必要なんだ?」
暗に、あんたの代わりにはならない、と言う言葉を彼は匂わせる。それに気付いたヤンは、真面目な表情で頷いた。
「恐らく、うちよりあんた達の方が――いや、ヨウ君が適任、思って」
「?」
「カンダタとすぐに事を構えんといかん事になった」
「……」
ヨウが背もたれに身体を預け、深く息をついた。
それが彼の、納得と了承の合図である。
待ち合わせ場所は胡椒屋だった。
バハラタは胡椒の産地だ。実家ムオルのある市場で売っている胡椒も、バハラタのものである。寒いムオルでは、体が温かくなるこの手のスパイスが必須だった。
ここの胡椒屋は有名で、ムオルでは誰もが知っている店だった。知っているが、店に入ったのは初めてだ。
有名な店とは思えないほど小さな建物だ。1階が売り場となってる。売り場自体も小さい。カウンターがあって、その奥に棚があるだけ。胡椒の専門店だから、それで事足りるのだ。カウンター越しに客は胡椒を頼めば、店主が量って売ってくれるのであろう。
しかし、そのカウンターに誰もいなかった。
現在、この胡椒屋は営業していないのだ。
「……あ、お久しぶり」
ごめんくださいと声をかけたら、階段を駆け下りる軽快な音がしてから、大人しそうな声がした。ひょこりと顔を出したのは、声に違わぬ大人しそうな少女――僧侶のレイだ。
「久しぶり」
「待っていたの。来て」
レイはそう言って、再び階段を登り始める。ラスは慌ててその後を追った。
階段の中ほどで振り返れば、ヨウが階下で興味深そうにカウンターを覗き込んでいる。
なにをしているのだか……
「盗むんじゃないわよ」
「んなことするか」
そんなことをする訳は無いだろうと思いつつも、言った言葉には、不機嫌な声が返ってきた。ラスは、ならいいけど、と小さく言って、レイの後を追う。
彼女には、ヨウの追ってくる気配を感じる事はできなかった。
何を見ているのだろう?
ヨウは不思議な人だ。
ラスはそう思う。
盗賊とは思えない博識ぶりや言動、一国の王女や大神官とすら既知であったという人脈など、彼にまつわる諸々に関しても不思議だが、それ以上に『盗賊』としての彼が、ラスにとっては不思議だった。
彼は、ラスの中にある『盗賊』像に似ている。
ひねくれていて、皮肉屋で。自分のもっている情報も、自分の考えも素直に話そうとしない秘密主義。しかし、誰よりも裏の裏まで物事を知ろうと貪欲に動く。
歩いても足音はしない。初めての場所は必ず調べる。しかも、それとなく、秘密裏に。
戦闘だって、素早さを活かした一撃必殺。もしくは敵を撒くだけの行為。そもそも、彼の戦術は、いかに力勝負にさせないかと言う事に、重点を置いている様に見える。
彼は、盗賊だ。
しかも、とても優秀な盗賊だ。
彼も、それを自覚している。それなりの矜持もある。
だが、彼は自分が盗賊である事を嫌っているようにも見えるのだ。
先ほどの言動も、その一つだ。
「いらっしゃい。待っていたのよ」
「あ、ルーさん、ニンさん。こんにちは」
「……む」
2階は居住スペースのようだった。
清潔感のある台所が部屋の区切るカーテンの向こうから見える。ラスが案内されたのはその隣にあるリビングだった。その奥に、部屋が2つある様だ。
レイの仲間達はリビングに集まっていた。テーブルにある6つの椅子。その二つに座っているのは、無口な戦士ニンと、魔法使いのルーである。
久しぶりと言うには最近ぶりね、と言いながら、ルーはラスに開いている席を勧める。ラスがその席に座ったら、台所からレイがお茶を持ってきた。
澄んだお茶の色は、どこかの盗賊の瞳を思い浮ださせる。
「バハラタは香辛料のほかに、お茶の産地でもあるの」
「あ、紅茶。うちも扱っているわ」
レイの説明に、ラスは思い出す。黒胡椒と一緒にバハラタに届く大量の茶葉。あの箱がほかのものでも保存するのに良くて、重宝していた。
「ん~いい香り」
ラスは、カップを口元に持って行き、匂いを堪能する。そして、一口、口に含んだ。
「美味しい! さすが本場」
思わず声が跳ね上がる。
「水が良いから」
「水?」
嬉しそうにニコニコとレイは言う。そう言えば、彼女は勇者ケイの幼馴染。と言う事は、ここが故郷と言う事か?
「街の南に流れる川。あの川は聖なる川と言われているの」
「聖水の効果があると言うわけじゃないんだけどね。美味しいんだよ。沐浴も良いね」
自らのカップに口をつけながら言ったのはルーだ。
「ところで、何で勇者が寝ている?」
「うわっ!」
「ひっ!」
「――っつ!? ぐほっ!」
いきなりラスの背後から声がした。驚いたラスは、紅茶が喉の変なところへいってしまい、盛大に咽る。
「ヨ……ヨウ………」
振り返れば声の主が呆れた表情を浮かべてラスを見下ろしていた。彼女は涙目で、恨めしそうに見上げるしかない。
「何やっているんだ?」
「……あんたの所為よ」
音も無くやってきて。
いつからいたのだと言う問いには、さっきから、と返って来た。さっきとはいつだ?
「よう……」
ニンが片手を挙げる。ヨウも同様に片手を挙げて挨拶をした。
無口なニンと無愛想なヨウは、なぜか仲が良い。
「で、勇者は?」
ヨウの2回目の問いに、ニンは眠らせた、と答えた。それだけでヨウは納得したらしい。
「成る程。猪突猛進娘を黙らせる有効な手段と言う事か」
「そうなの。私のラリホーで」
答えたのは、僧侶であるレイ。仲間にラリホーとは、大人しそうな顔をして、やる時にはやる子のようだ。
「起こせるか?」
「起こしていいの?」
「勇者無しで進めれるような話じゃないだろ?」
「そうね」
レイはうなずいて、壁際にあるソファへ向かう。確かに、そこには毛布に包まれた人がいた。
「あそこにいたの……」
気付かなかった。
彼女たちの女勇者がいないなとは思っていたけど、あそこで眠らされていたとは気付かなかった。
レイが毛布をそっとめくれば、気持ちよさそうに寝息を立てているこげ茶色の髪の少女が現れる。寝顔ですらお転婆さを感じるこの少女が、彼女たちの勇者、ケイだ。
「ケイ……ザメハ」
それは、小さな、寝ている赤子すら起こせぬような静かな声。しかし、その声で少女の瞳がぱちりと開いた。
と、同時に彼女は飛び起きる。
「タニアっ!」
そう叫んで飛び出す彼女を、間一髪、ニンが取り押さえた。成る程、これは眠らせなくてはいけまい。
「ヤンが助っ人を頼んでくれたから、作戦を考えよう、ケイ」
「そんな悠長な事をやっている暇なんて無い!」
「……急がばまわれ」
そう言って、ぐい、とニンがケイを持ち上げて、強引に椅子へと座らせる。ケイはうーとうなりながら椅子に落ち着いた。
「そういう時だ」
「――うん」
ケイが頷いたのを確認して、ニンは彼女の手を離す。そして自らも席に着いた。
「――で」
全員が席について、最初に口を開いたのはヨウだった。
「今度のカンダタは人攫いか?」
「え!?」
ラスは驚いてヨウを見る。そんな話、聞いていない。
「ヤンには何処まで聞いたのさ?」
二人の様子を見たルーの問いに、ヨウはカンダタと事を構える事になりそうだ、程度だと答える。
「タニア……がペットの名前じゃなければ、女の名前だ。その名を叫んで、急がなければと言うのなら、誘拐――時間がないというのなら、人売りか」
「それだけで……」
「十分だろ」
いや、無理だと思う。
ラスは心の中でそう突っ込む。
「タニアは胡椒屋の娘なの」
レイが説明をした。
「タニアがさらわれて、婚約者のグプタが彼女を助けようと飛び出して行ったきり、帰ってこない。お爺ちゃんは心配のあまり倒れちゃうし……」
そう言って視線を移す。閉じられた一つの部屋。そこに彼女の祖父が寝ているのだろう。
「成る程」
ヨウは手を顎の下へ移動して眼を伏せる。
「二人を助けるには、否応無しにカンダタとことを構えなきゃいけないと言う事か」
そう、と、4人が同時に頷く。こういうところで妙に息が合っているパーティなのだ。
「で、俺らの何を必要とする? ヤンの代わりに俺らが役に立つとは思えんのだが」
確認のために、ヨウはヤンに聞いたことと同じ事を尋ねた。これに答えたのはケイ。
「あたしは、あの洞窟へ行ったことがある。入り口だけだけど。案内人――少なくとも、洞窟探索のプロである盗賊の導きが必要だと言う事が、分かった」
ヨウは頷く。
「で、倒すのか?」
ヨウの問いに、全員の表情が曇る。全く同時に。微笑ましいほどに彼らの表情は一致している。
「覚悟は、決めているよ」
ケイの固い声が店に響いた。
カンダタを、倒す覚悟を。その後、残党から恨まれ、一生追い回される覚悟を。
その声に危ういほどの意思と決意を感じて、ラスは横目でヨウの様子を見る。彼もそれはわかったらしく、神妙に頷いた。
「お前等、『盗賊』に俺を選んだのは正解だったな」
しかし、出てきたのは軽くてどこか偉そうな口調。簡単に言えば、生意気な口調である。
そして大体こういう口調の時、彼は面白がっているのだと言う事を、ラスは最近知った。例えば、アルを鍛える時とか……はっきり言おう。性格が悪い。
性格の悪い盗賊は、その口調で続ける。
「カンダタについての真実を、教えてやる」
「真実?」
4人の声が、ラスの声と重なった。
「お前等、冒険者の成り立ちと言うものを知っているか?」
それは、ちょっと昔の話から始まった。
カンダタ、と言う盗賊がいる。
彼が現れたのは、何十年も前になる。彼は、大盗賊団を率いた。そして、何より彼の功績は『盗賊』の定義を覆した事だ。
カンダタははぐれ者を集めた。そして、彼らしか出来ない事を成した。それは確かに盗みであったが、対象が、それまでの盗賊とは違った。
彼らは、忘れ去られた遺跡や、誰も入ることの出来ない迷宮などから、そこに眠っている宝を盗んだ。盗むと言うより、探りだした。
それは、今で言う冒険者のようなものだ。いや、冒険者の起源が彼らであると言っても良い。
――数十年前に現れた盗賊「カンダタ」とは、そのような集団を作り出した男だった。
「彼は、はぐれ者に彼らの秩序を与えた。そして、その秩序すら乱す奴を、決して許さなかった」
「盗賊の秩序?」
そうだ、とヨウはうなずく。
「彼が許さなかったのは、人殺し、人の売買。そして、貧しいものからの盗みだ――その何れかを行った者は、既に世界中に根を張ったカンダタの一族から命を狙われた」
制裁は、死である。
それを聞いて、眉をひそめてラスがぶるりと身震いした。盗賊と言う裏の職業が、そういわれる所以だ。盗賊のコミュニティと言うのは、最後の人らしい秩序だから。それは、きわめて厳しい。
しかし、それだと……
「おかしくないかい?」
艶っぽい声が、ラスの脳裏に浮かんだ疑問を言葉にする。
「今のカンダタは、その禁忌を犯しているじゃないか?」
何故かと彼女は聞く。
「ならず者に新たな秩序を与えた」
ヨウは、その質問はまだ早いだと言わんばかりに、彼女の問いを無視して話を続ける。
「それが『初代』カンダタの偉業だった」
それは、カンダタ自身の口から語られる事はなかった。
ヨウがそれを知り得たのは、初代カンダタを慕うものを知り合えたからである。
彼は、それを知りえる立場にあったから。
「そして、2代目カンダタが誕生する」
カンダタの名は受け継がれた。
可愛がっていた姪が結婚したのを機に、カンダタは引退する事に決めた。そして、彼の片腕と言うべき存在に、全てを渡した。
「2代目カンダタが行った事は唯一つ」
そして、それはあまりに偉大な事。
「なに? なに?」
まるで、幼子が物語の続きをせがむかのように、ケイが身を乗り出してきた。興味津々、と言った感じだ。
そんな彼女に内心苦笑しながら、ヨウは口を開く。それは、恐らく彼女の意表をつくであると思いながら。
「盗賊団を解散させた」
正確に言えば、冒険者、と言うものはこのとき誕生した。
冒険者と言う肩書きは、そもそも、カンダタ盗賊団だった者達が、解散後に名乗ったものなのだ。
「……は?」
ケイがぽかんと口を開けて、静止する。
その口が再び動き出すまで、ゆっくり10を数えるくらいあった。
「じゃあ、なんでカンダタが今もいるの!?」
次の瞬間、向こう3軒まで響くような大声で、ケイは怒鳴る。その声に、全員が耳をふさいだ。
「あたし達の故郷をずっと脅かしていたカンダタは何者? あたし達は、誰と戦っているの?」
ふさいだ手の隙間から、彼女の声がもれて聞こえてくる。
その疑問は尤もだ。そして、一番大切なこと。
「簡単だろ?」
どういうこと? と連呼するケイに向かって、ヨウはペースを崩さずに説明する。
「カンダタの名は今でも盗賊たちにとっては大きな意味を持つんだ。古株の冒険者たちにとってもな」
だから、カンダタの名を騙る者は少なくない。ここにいる「カンダタ」も、シャンパーニの「カンダタ」もその一人だろう。
「あの……」
大人しい僧侶が、小さく口を挟んだ。
「ヨウさんは、貴方がたが戦ったカンダタと、ここにいるカンダタは別人だとお考えなのですか」
「だな」
ヨウはあっさり頷いた。
王城への泥棒と、人攫い。同じ悪行だが、その質はまるで違う。それに、ロマリアとバハラタでは遠すぎる。
「まさか、世界中にいるカンダタの手先と言うのは、『カンダタもどき』のこと?」
もしかして、と尋ねれば、それにもそうだ、と答えが帰ってくる。ラスは呆れた表情を浮かべた。
「昔の噂と、今の割拠しているカンダタもどき達と。それが相まって、ややこしい事になっているだけ?」
彼は頷く。
じゃあ、彼女たちの覚悟は何なのだ?
世界の大盗賊一味と事を構えるという、その覚悟は、この事実の前に、あまりに虚しいものではないのか?
「当のカンダタ殿達は、何やっているの?」
ラスは責める様な口調で聞いてきた。それに、ヨウは大きな溜息をつく。
「年なんだよ、二人とも」
初代は、ヨウの母の叔父だ。普通に生きていても老人である。2代目も、彼より年下といえども、それは数年単位の話で、あそこまで生きれば誤差範囲内である。
「だから、ここ数年は新米盗賊を使って、カンダタもどきを潰させていた――修行だと言ってな」
「まさか……」
ラスは、引きつった笑みを浮かべた。お? と言う表情を浮かべるヨウを見て、自分の予想が正しいと半ば確信した。
「その、新米盗賊が貴方だとか言い出さないわよね?」
「まぁ、そんなところだ」
盗賊になって、初代の庇護下にいた。同じ大陸に隠居していた2代目との付き合いも浅くなかった。盗賊団の歴史と経緯を正しく知っており、二人のカンダタの意思を継ぐものと言う意味なら、ヨウは3代目カンダタとも言える。
「……なっ」
がたん、と椅子が倒れる音がした。ケイが椅子を蹴倒して立ち上がったのだ。顔を真っ赤にして。
「なんで、それを早く言わないのよぉっ!!」
バハラタ中に響き渡る大音声が、ヨウの耳を劈く。
それは部屋にいるヨウ以外の全員が思ったことだ。
恐らく、彼は隠す気など無かっただろう。しかし、言う気も無かった。
言わなかったのは、面倒くさかったのか、巻き込まれたくなかったのか。それとも、カンダタに関わっていればいつかはわかる事だからと言わなかったのか。
言う義理もないと思ったのかもしれない。
何にしろ、知らぬ仲でもないと言うのに、薄情な話だ。
ラスの冷たい視線に気付いたのか、ヨウは小さく首をすくめた。