神話があった。
 それは、竜と人が共存していた時代。
 世界で最も深き山脈の最も高き山に穴が穿たれ「魔王」と呼ばれる者が世界を恐怖に陥れた。
 竜と人との掛け橋と言われる者「竜の勇者」がそれに立ち向かう……

 それは伝説。
 竜と精霊が世界を見守る時代。
 神話の時代に穿たれしギアガの大穴より再び「魔王」と名乗る者があらわれる。
 それは、人と魔物の均衡を崩し、再び人は恐怖に落とされる。
 均衡を取り戻さんと現れたのは、一人の男……

 それは神話の世界。
 世界の恐怖を取り除かんと旅立った勇者は未知の世界「アレフガルド」を統べる精霊と契約を交わし「魔王」を封ず。
 大穴の下のさらに下に。

 契約により、竜と精霊は二つの世界を統べる者となる。
 精霊は人間を、竜は、魔王より解放されしモンスターを……
 そして、人間と魔物と共存する世界へと変わる。
 再び魔物を強い強制力で制し、力を与える「魔王」が、「竜の勇者」の封印をやぶらぬ限り……
 それは神話の世界。
 真実は誰もしらない……

 伝説は始まる。
 男は世界で最も深き山脈ネクロゴンドで消息を断つ。
 遺志を継いだのは彼の一人息子。
 彼が16の誕生日を迎えた時、全てが始まる……

Dragon Quest3
伝説の神話


 夢を見た。

 余りにも自分は幼すぎて殆ど覚えていない父の旅立ち――母から何度も聞かされた。
 衝撃の報告。ぼんやりと覚えている父の力強い声、自分を高く持ち上げた太い腕、自分の腕では抱えきれない大きな背中……殆ど記憶にも無い父だが、それでも、最強だと思っていた父の死。
 何時の間にか、父の遺志を継ぐ事になっていた。不満は無い。きっと自分が高名な勇者の息子では無かったとしても、自分はバラモス退治に出ていただろうから。そうさせる環境が、勇者オルテガという人物を排出したここアリアハンにはある。

 過去を夢に見てから、アルは一旦目を覚ました。
 外をそっと見てみると、未だ暗い。やはり興奮しているのだろうか、いつもは朝まで決して目覚める事が無い程深く眠るのに今夜は眠りが浅い。
 伸びをして、アルは再びベッドへ戻った。

 再び夢を見た。
 今度は知らない所だ。

 空の上にいた。足下にはふかふかとした純白の羽毛のような物が敷き詰められている。……暖かい。
「アル」
 自分を呼んだ声の方へ振り向くと、そこには見知らぬ人が3人いた。自分と同じくらいの歳だ。
 手前にいた銀色の髪と、猫のような瞳が印象的な少年が話す。
「そこだ。手前の岬にあるのがネクロゴンドの祠。右手の島にギアガの大穴がある」
「左にある高い山に囲まれた島は?」
 聞いたのは彼の隣にいた、金髪の巻き毛が印象的な可憐そうな少女だ。しかし、その格好は、誰よりも活発に動けそうなものであった。
「あそこだ。あそこに、バラモスの城がある」
 バラモス。そう言った少年の瞳にはなんとも言えない痛い光が宿っていた。
「アル。良い?」
 前でじっと何かをやっていた赤毛の少女――自分よりは年上だ――がふいに振り向いて聞く。
「……ああ、行こう」
 短く答えた自分の声に驚く。男性にしては高めだが、それでも今よりぐっと低くて落ち着いた声だった。
 自分の声に、3人はそれぞれの表情で答える。

 瞳に痛みをたたえ、それでいてもどこか人を喰ったような顔。
 星を鏤めたようなきらきらした大きい碧色の瞳を真直ぐアルに向けて、その可愛い顔に勇ましさをたたえている顔。
 緊張した面持ちで、堅い表情で真面目に頷く顔。

 そのどれもが、とても頼もしく思えた。

 白い暖かい空飛ぶ物は徐々にそこへと距離を縮めていく……

「……ル、アル、起きなさい。今日はお前の16の誕生日。大切な日じゃなかったの?」
 ……この呼ぶ声は?
「おはよう、アル。珍しいわね、いつも勝手に起きるのに……」
 流石に緊張して眠れなかったのかしら? そう言うのは父が旅立ってから女手一つで自分を育ててくれた、一生――多分自分が『勇者』と呼ばれる様になっても――頭が上がらない人。
「おはよう、母さん」
 そう言って起き上がったら、母は自分が今日着る服をだしていた。きちんとした服じゃないと、と言いながら引き出しを見ている母を見てアルは苦笑する。もう子供じゃないんだし、自分で着る服ぐらいきちんと考えれるよ……
 しかし声には出さない。
 母はきっと、自分以上に心配なのだろう。父の遺志を継ぎ旅に出る我が子を誇りに思うと同時に、自分の最愛の人と同じ運命を辿ってしまう恐怖を感じずにはいられないのだろう。

「今日は王様に旅立ちの許可を貰う日。此の日の為に……あの人の遺志を継ぐ貴方の為に……私はアル、貴方を立派な男の子に育てたつもりです」
 家を出る前に、母は凛とした態度でそう言った。
「馬鹿正直でお人好しな所もあるけど、それを補えるような仲間が出来るはずよ」
 今度は目を覗き込んで優しい声音で言う。
「父さんにはなかった、貴方の魅力。貴方は人を引き付ける何かをもっているわ」
 ……気を付けてね。そう言って城の前まで送ってくれた。
 深呼吸をして目の前にあるアリアハン城に向かう。全てはそこから始まるのだ……

 アル、16歳の誕生日。後の世に伝説とまで言わしめる大勇者の旅立ちである。

00/12/25UP